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Interview with PLASTICPRODUCT

 

私たちが探求しているのは、既成概念ではなく、
新しい視点、そして別の視点です

Mincheol Seo

PLASTICPRODUCT MPa——ファッションと知覚、居住空間への拡張

PLASTICPRODUCT は、ソウルを拠点とした2020年に創立したファッションブランドだ。プラスチックのようなありふれた素材を、異なる視点から見つめ直すという独自の姿勢を表した名前だという。

ファッションブランドとしては、どこか異質の空気を纏っている。プロダクト自体のコンセプチュアルなデザインだけではなく、ブランドの世界観を、ビジュアル、プロダクト、空間体験により複合的に伝える、コミュニケーションの独自性が放つ空気感でもある。

派生プロジェクトであるMass-Produced Articles (以下MPa) は、「異なる視点から身近なものの目的を変える」という発想の転換を軸に据える。ブランド名とも通ずるこの姿勢は、プロジェクトの多様性の中にも芯の強さを感じさせる。

ブランドの世界観を提示する形式は様々で、ZINEからインスタレーションまで幅広い。しかし、メディアが多様であってもコンセプトは常に一貫している。その類稀な、領域を横断したコミュニーケーションで、ブランドの世界観を知覚を通して訴えかけてきた。

 

クリエイティブディレクターであるミンチョル・ソ(Mincheol Seo)は、建築からインスピレーションを受けながら、オブジェクトが人間の意識にどのような影響を与えるのかという問いを、衣服のデザインやプロジェクトを通し投げかける。

私は建築家をとても尊敬しています。

PLASTICPRODUCTもまた、完璧さではなく、不完全さや失敗の中から生まれるエネルギーに関心を持ち、それを共有したいと考えています。

Mincheol Seo

ミンチョル・ソによるコンセプチュアルなデザインと、ファッションと建築の関係性への探究は、アレッサンドロ・メンディーニ(Alessandro Mendini)の思想を想起させる。

メンディーニは、ミラノ生まれのイタリア人デザイナーおよび建築家であり、かつては建築・デザイン誌『Domus』のディレクターも務めた。『Domus』は、彼の初期作品を「精神的使用のためのオブジェクト(objects for spiritual use)」と表現している。*1

メンディーニの作品は、デザインオブジェクトに内在して当然と理解されてきた、従来の機能的合理性から離れることを目的としていた。デザインを単に機能的な基準を満たすことに限定する考え方、定義そのものに疑問を投げかけたのだ。

私にとって重要なのは、プロジェクトそのものではない。私はデザインという実践を、その本来の機能や目的に従って展開するためではなく、私にとっての自然な生命行為である、イメージを生み出すことのために用いているのだ。

Alessandro Mendini, 1987

メンディーニは、かつて『Domus Moda』(Domus誌のファッション特集号)において、建築とファッションの関係についてこのように語っている。*2

自分のデザインで私を惹きつけるのは、絶えず変化し続けるということである。建築をファッションデザイナーが衣服について考えるように考えようとしている。

[…]

そして衣服を、最も小さな建築、すなわち人間の身体を取り囲む最も小さく、最も技巧的に構築された空間であり、身体に親密に寄り添う、自由で変化し続ける居住空間として捉えている。

Alessandro Mendini, 1981

衣服を「最小の建築」として捉えるメンディーニの視点は、ミンチョル・ソがファッションプロダクトを建築の視点から再考する姿勢と似通っている。

MPa SPEED CTRL WATCH ——「時間の主体であれ」

Being the Subject of Time

 

「人間は本当に合理的な存在なのだろうか?」

 

MPaのデザインプロジェクトである「SPEED CTRL WATCH」は、時計の着用者に自身の脆弱性を意識させ、問いかける。

文字盤上では、絶対的な時間と個人的な時間が同時に交差する。

時針と分針は、同一の形状をもつ。

時間は、針同士の関係性と周囲の状況を通して読み取られる。

そのデザインにより、時間は同一の形状、規則的な動き、そして文脈や環境への意識によって特徴づけられる。

PLASTIC PRODUCT

現代では常識的に、時間は測定可能なものとして扱われる。しかし、自分自身の精神状態を見つめたとき、時間の流れをどのように知覚するだろうか。本当に時間は一定で、常に安定しているだろうか。

規則化された時間の流れから一度立ち止まり、自分自身の内側にあるリズムへ耳を傾けたとき、その不規則性や不安定さは新たな知覚を引き起こす。時間は外部の環境から一方的に支配されるものではなく、私たちの精神状態によっても変化するはずだ。

もし建築が、移り変わる天候や環境の中で人間の空間を守る機能を守る役割をもつとしたら、時計は時間の流れの中で、自分自身のペースを確保するための「住居空間」になり得るだろうか。

自身の速度をコントロールできる人間だけが、本当の意味で自由である。

PLASTIC PRODUCT

 

時計のデザインで示した「スピードコントロール」は、MPaというブランドの背景にある、最も重要なコンセプトだ。

MPa SPEED CTRL WATCHは、のちにインスタレーションプロジェクトへと発展することとなる。腕時計としてのコンセプチュアルデザインから、「スピードコントロール」を身体的に経験できる空間デザインへと拡張された。

 

HANGING SOUND ——音を通したメンタルヘルスと瞑想の探究

 “Inner Echoes: Exploring Mental Health and Meditation through Sound”

ビデオアートの父と呼ばれるナム・ジュン・パイク(Nam June Paik)は、テレビという日常的な既存メディアを再構築し、音楽を奏でるメディアとして新しい表現形式へと変換した。PLASTICPRODUCTもまた、「MPa SOUND HANGER」を通し、ハンガーという日常的オブジェクトを、その機能性を全く異なる視点から、音響装置として再解釈する。

インスタレーション「HANGING SOUND」プロジェクトでは、本来、音響的欠点とされるノイズや歪みを排除するのではなく、むしろ作品の中心要素に据える。ここでは、音は単なる情報伝達ではなく、精神状態や注意の向け方を変化させる知覚的な装置へと変わる。

最初、私たちは自分たちのためのハンガーを制作しようと考え、そこにスピーカーとしての機能を組み込みたいと思っていました。そこで、予想外の発見がありました。

ステンレススチールという素材を用いたことで、クリアな音ではなく、ノイズが発生したのです。

従来、スピーカーは音質によって評価されるものです。しかし、私たちが日常的に使用しているAirPodsについて考えたとき、その価値は必ずしも優れた音質だけにあるのではなく、むしろコンパクトさや利便性にあることに気づきました。

この考えをもとに、私たちは制作空間で生まれたノイズを録音し、再加工することで、ノイズそのものがホワイトノイズとして知覚される体験へと変換しました。

PLASTICPRODUCT

MPa Sound System Discs Tokyo 

2026年5月には、東京・日本橋馬喰町にあるCON Galleryにて、アーティスト・VQによるライブパフォーマンスが行われた。

PLASTICPRODUCTによる音とメンタルヘルスの探求はさらに発展し、東京を舞台に新たな形で空間体験として実現した。この体験型ライブパフォーマンスでは、「MPa Disc」を中心に音が空間内に分散される物理的なシステムが構築された。

観客は音を単に「聴く」のではなく、そこに居ることで循環構造の内部における身体的な一部となる。観客は単にパフォーマンスを取り囲む存在ではなく、音が伝達される回路そのものの上に身を置き、構造の一体となった。

 

ファッションブランドとして実験的な、独自のアプローチを展開する「PLASTICPRODUCT MPa」プロジェクトについて、クリエイティブディレクターであるミンチョル・ソにインタビューを行った。

INTERVIEW 1.

HANGING SOUND— サウンド、知覚、身体 の関係性

 

MH

日本人として「音と知覚の実験」と聞くと、私はまず坂本龍一の活動を思い浮かべました。また、坂本龍一と早い段階からパフォーマンスアートの領域で協働していたナムジュン・パイク(Nam June Paik)の実践にも、PLASTICPRODUCTのアプローチとの近い部分を感じています。

パイクがテレビという既存のメディアを再構築し、予想されなかった音や新しい表現形式を生み出したように、HANGING SOUNDでは、本来音響装置として想定されていないハンガーをスピーカーデバイスとして再解釈することで、新しい知覚経験を生み出しているように感じました。

一方で、PLASTICPRODUCTの場合、ファッションプロダクトを出発点としているため、より身体に密着する形で人間の感覚や認識に作用している点が特徴的だと感じています。

身につけるものから、さらに空間インスタレーションへと拡張する際、空間の中で鑑賞者にどのような身体的・感覚的経験を生み出すことを意図されていますか?

また、鑑賞者によって異なる予想外の気づきが生まれると思いますが、制作側としては、HANGING SOUNDやMPa Sound System Discs Tokyoを通して、音や知覚をどのような形で空間へ翻訳しようと考えましたか?

 

MS

私は新しい「音」を作ることよりも、音が伝わる仕組みを新しくすることに興味があります。

HANGING SOUNDは、ハンガーを別の視点から見つめ直すことから始まりました。本来は服を掛けるための道具だったハンガーが、音を伝える装置になったとき、人は同じ音であってもこれまでとは違う形で知覚するようになります。

MPa Sound Systemも同じ考え方から生まれています。私は音楽そのものを作りたいのではなく、MPaならではのサウンドシステムを提案したかったのです。どんな音が鳴るかよりも、その音がどのような経路を通って届くのかに関心があります。

だからこそ、このプロジェクトには明確な結論やゴールを設定したくありませんでした。むしろ、音が伝わる経路には、まだ無数の可能性が存在していることを示したかったのです。

MPaが提案したサウンドシステムも、その無数の経路のひとつに過ぎません。そのシステムを通して、ある人は違和感を覚え、ある人は面白さを感じ、また別の人はまったく異なる感情へたどり着くかもしれません。

私は、その「到着点」まで設計したいとは思いませんでした。新しい経路だけを提示し、その先でどこへ辿り着くかは、それぞれの体験として残しておきたい。それがこのプロジェクトにはふさわしいと考えています。

制作の過程で、自分なりに期待していた感情や空気感はもちろんありました。しかし、それを唯一の正解として提示したいとは思いませんでした。

 

INTERVIEW 2.

ブランドの実験性と世界観の演出方法

 

MH

PLASTICPRODUCTは「実験的」という言葉で紹介されることが多いと思います。

しかし、プロダクトだけでなく、インスタレーション、ZINE、ビジュアル表現など、さまざまなメディアを通して一貫した世界観を構築されている点にも強く興味を持っています。

個人として、表現形式やジャンルを問わずPLASTICPRODUCTの活動全体を通して探究している根本的なテーマや問いは何だと考えますか?

 

MS

私たちが探求しているのは、新しい視点、そして別の視点です。

既成概念をそのまま受け入れるのではなく、「もっと良い見方はないだろうか」と問い続けること。その価値観を私たちは共有しています。

ユーティリティウェアも、プラスチックも、シルバーカーも、無機質なロゴだけが入ったTシャツも、サウンドシステムも、私たちがこれまで扱ってきたすべての対象は、「別の視点から見る余地はあるのか」という思索から始まっています。

そして、その考え方そのものを共有したいと思っています。

INTERVIEW 3.

MPa Sound System Discs Tokyo — 東京という土地について

 

MH

MPa Sound System Discs Tokyoでは、東京という場所が選ばれています。

東京で発表することには、何か特別な意図や背景がありましたか?

韓国と日本の文化や感性の間に、作品を展開するうえで共鳴する部分を感じていましたか?

私自身、韓国の音楽やアートに、近いものを感じることは多々あります。現在イタリアに住んでいますが、日本文化や日本人と関わることが比較的稀な環境で、韓国の芸術家や音楽、食に触れる時には安心感を感じています。個人的には、韓国の芸術表現には、日本以上に詩的さを感じ、心が洗われることが多いです。ある意味で、言葉によるメディテーションに近い感覚かもしれません。

もし何か近いもの、もしくは違いを感じることがあれば伺いたいです。

 

MS

私は、日本には物事をゆっくり見つめ、静かに考える文化があると感じています。

今回のパフォーマンスは、「音が伝わる新しい経路」を提案する試みでした。そのため、一つの答えを提示するよりも、多様な解釈や思索が自然に広がっていく都市がふさわしいと考え、東京を選びました。

INTERVIEW 4.

HANGING SOUND— 素材の意外性が生むノイズ

MH

HANGING SOUNDでは、通常であれば音響的な欠点とされるステンレススチールの特性を、そのままノイズとして作品の中心に据えている点が印象的でした。

このアプローチには、李禹煥のもの派に見られるような、素材そのものの性質を受け入れ、そこから表現を構築する考え方との近さを感じました。

PLASTICPRODUCTの制作において、ファッション以外の領域(例えば現代美術、音楽、建築、哲学など)から影響を受けることはありますか?

もし触れることの多いアーティストや思想家がいれば教えていただきたいです。

 

MS

特定のアーティスト一人から直接的な影響を受けているとは思っていません。

ただ、私は建築家をとても尊敬しています。

建築は、人の動きや感覚、そして人と人との関係性さえ変えることのできる、圧倒的な力を持ったメディアだと思っています。その大きな力に対して、私はいつも敬意と憧れを抱いています。私自身も、何かしらの影響を人に与えられる存在でありたいと考えながら活動しているからです。

音楽家では、オウテカAutechre/マンチェスター出身のテクノユニット)が好きです。

特定のサウンドというよりも、既存のフォーマットを繰り返すのではなく、自分たちだけのシステムと言語を築きながら、新しい可能性を探り続けてきた姿勢に強く惹かれています。

私自身も、一つの完成された作品を作ることより、新しい視点や体験が生まれるための構造を考えることに、より大きな関心があります。

INTERVIEW 5.

ブランドを物語る空間デザイン

MH

@nonfictionhomeのInstagram投稿で、PLASTICPRODUCTとのコラボレーションを拝見しました。

これは、空間デザインや建築に関わる新しいプロジェクトの企画でしょうか?

もし可能でしたら、このプロジェクトの背景や、PLASTICPRODUCTが空間というメディアを通して探究していることについてお話を伺いたいです。

 

MS

Nonfiction Homeのチームとともに、新しい空間を制作しました。それがPLASTICPRODUCT漢南店です。

漢南店には、MPa Residenceという居住空間も併設されています。

私たちのミッションは、PLASTICPRODUCTとMPaが持つDNAを保ちながら、魅力的な空間をつくることでした。

その過程で、Nonfiction Homeが見出したのが、ウンベルト・リーヴァUmberto Riva/ミラノ生まれの建築家)とPLASTICPRODUCTに共通する価値観でした。

私たちは、リーヴァが探求していた「不安定さ」「不完全さ」、そして「失敗」に対する姿勢に共感しました。PLASTICPRODUCTもまた、完璧さではなく、不完全さや失敗の中から生まれるエネルギーに関心を持ち、それを共有したいと考えています。

そのため、リーヴァのカーサ・マリア・ボッテロ(Casa Maria Bottero/自身の家族のため設計したアパート)の構造を部分的に引用し、私たちなりの方法でこの空間へ翻訳しました。

また、公的な空間の中に私的なエネルギーを持ち込み、訪れる人に少し不思議な体験をしてもらいたいとも考えました。

来場者はまず、密度が高く温かみのある住空間を通り抜け、その先で、空白が多く乾いた印象のPLASTICPRODUCTショールームと出会います。

私自身、とても気に入っているプロジェクトであり、空間でもあります。

 

 

 

 

*1 Domus, Alessandro Mendini. https://www.domusweb.it/it/progettisti/alessandro-mendini.html

*2 Mendini, A. (1981a). Cosmesi Universale. Domus Moda, allegato a Domus, 617, 1. 
Paola Maddaluno, INSCRIVERE LA MODA NEL DESIGN: ALESSANDRO MENDINI E DOMUS MODA 1981-85, in AIS/DESIGN JOURNAL STORIA E RICERCHE VOL. 3 / N. 6 SETTEMBRE 2015. 

 

 

 

 

2026. 8. 4